医療侵襲と後見人
細い針を他人の腕に刺し込み血が出る、刑法によれば「傷害罪」にあたりますが、お医者さんが行う注射であれば、「違法性」が阻却され犯罪ではなくなります。
そして、このような行為のことを「医療侵襲(いりょうしんしゅう)」と呼んでいます。
代表的なものが手術です。ナイフで人の腹などを切り開くのですから、医師以外なら犯罪です。
医療の現場では、手術の際にはもちろん本人の同意を求められますし、さらには家族の同意も要求されます。
では、判断能力がない方に手術の必要が生じた場合、その方の後見人は、ご本人の替わりに同意すべきなのでしょうか?
現状では、後見人には「医療侵襲についての同意権」はない、と法律上は解されています。この同意権はあくまでも本人にだけ備わっているものだから(例えば後見人が本人に替わり離婚の意思表示をできないように)、という考え方によるものです。
しかし、本人は認知症がある、後見人に同意権はない、病院は同意が得られないから手術しない、という状況になり、必要な手術が受けられない場合があるかもしれません。実際、苦悩の末に、「社会通念上、本人も判断力があればこの手術を受けたであろう」と考え、同意した職業後見人の話も耳にします。(病院側は、後見人に同意権があるかないかについては、あまり深く考えないようです。)
この医療侵襲の同意権の問題は、今後も変遷が予想されます。
任意後見契約においては、手術や延命治療・ターミナルケアについてのご本人の考え方をできるだけ明らかにしていただき、書面に残す(前回のライフプランなど)という対応を取り、できるだけいざという時に慌てずに済むよう努力しています。