法律行為と事実行為
後見人の仕事は、ご本人に代わって法律行為をすることです。これは法定後見でも任意後見でも同じです。
法定後見のうちの一類型である「後見」では、あらゆる行為について後見人は代理権を持っています。(「保佐」「補助」では裁判所に申し立てて、与えられる代理権だけです。)
一方任意後見では、任意後見契約書(公証人役場で作成するやつです)で定めた事項についてのみ代理権があります。
では、任意後見契約でどのような代理権を与えているかというと、実はできるだけたくさん決めておくのが通常です。起こり得ることについては代理権を定めておかないと、いざという時に、折角の後見人が働けないからです。もちろん本人に判断能力がある間は、代理権の変更をすることもできますが、判断能力を失った後ではどうすることもできません。法定後見へ移行するしかないでしょう。
具体的な代理権は、・不動産の売買・銀行等金融機関との取引全て・行政機関への手続・保険金の受領・介護保険契約・医療契約など、多岐にわたって定めています。この代理権を実用に即して定めておかないと、例えば、銀行預金の引き出しはできるけれど、郵便貯金は引き出せないなど、任意後見契約も画餅になってしまいます。
ところで、事実行為は後見人の役割ではありません。
長い期間お風呂に入らず不潔なので入浴させる、などは法律行為ではなく、事実行為です。本人の健全な生活に必要なことですから、それに気を配ることは「身上配慮義務」として後見人の仕事です。でも、自ら行うことはちょっと違います。ご本人の自宅を訪れて家中ゴミだらけでゴキブリが走り回っていたら、家事介助サービスを契約するのが後見人です。
もっとも、ちょっとしたことであれば、ついつい自分で手を出してしまうのも事実で、ある司法書士は庭の木を切ったことがあるそうです。